シューマンは私たちに《トロイメライ》など懐かしい曲を数多く残し、それらの曲を愛する人は多い。この書はシューマン音楽に魅せられ熱烈にそれを愛した一人の「楽徒」がシューマンの生涯を伝記として描こうという少年時代から抱き続けた夢を結晶させたものである。
シューマンについては音楽が愛され、その名声が広く世界の隅々にまでとどいている割には彼個人の生涯について知られることが少ないように思う。その原因の一つは強烈な個性の持ち主クララとの10年にわたる恋愛と結婚がシューマンといえば反射的にクララという名がこだまするほど強いイメージを人々に植え付けてしまったことによるのだろうか。
シューマン・ブラームスとの交流も芽生えたクララについて書かれたものには華があり、種類も多い。しかし、シューマン自身について紹介する日本語版の出版物はシューマン音楽が取り付きやすいが奥が深く、理解が難しい印象を与えるためなのか意外に少ない。
著者は母親やクララへの手紙など資料を丹念に精査し、苦悩に満ちた偉大な作曲家の生涯を心からの敬意と愛情をこめて伝えてくれる。「人間シューマン」に触れることでシューマンの曲が一層味わい深いものになるはずである。
なお、巻末の「作品表」は完璧に作成されていて、シューマン研究者・愛好者には必携の資料である。 |